排卵直前のタイミングで、ご主人にマスターベーションで採取してもらった精子を洗浄濃縮して元気な精子たちを選び、カテーテルを用いて奥さまの子宮内に注入します。
夫婦生活の場合の精子のスタート地点は腟内ですが、人工授精では子宮の奥になりますので、卵子を目指す旅の距離は、およそ半分になります。
AIHは、配偶者間人工授精(Artificial Insemination by Husband)の略。
子宮内人工授精(intrauterine insemination)を略してIUIと表記することも。
人工授精(AIH)は、こんな二人におすすめします(適応)
ステップアップ治療の二段階目の人工授精(AIH)で妊娠をねらうためには、一段階目のタイミング指導同様4項目の条件をクリアしていなければなりません。
AIHのチャレンジ条件
- まずは排卵があること(投薬治療で排卵すればOK)
- 子宮や腟があること
- 卵管の通過性が少なくとも片側は保たれていること
- そして射出された精液の中に元気な精子が一定の数いること
※精液所見の基準値は施設によって異なりますが、WHO(世界保険期間)が定める正常精液所見の基準(2010年改訂)によれば、精子濃度は精液1mL中に1500万個以上、精子の運動率は前進運動精子50%以上、または高速直進運動精子25%以上。数回受けた精液検査で常に基準値を下回る場合には男性不妊と診断されます。
精子濃度が500万個/mL以下の場合には、一般不妊治療での妊娠は難しいと判断する施設が多いかも知れません。
AIHは、こんな二人に(適応)
- 軽度の男性不妊
- 勃起障害(ED)
- 頸管粘液分泌不全
- タイミング指導を半年~1年受けても妊娠に至らない
- 抗精子抗体が弱陽性
※精液検査は良好なのに、フーナーテストが何度受けても不良の場合には、抗精子抗体がないかどうか血液検査を受けてみましょう。
AIHのチャレンジ条件4項目に問題がなく、適応の5項目のいずれかに当てはまり、なおかつ妊娠を非常に急がなければいけない事情(妊娠のリミットが近い、長期にわたる不妊期間などの問題)がなければ、一般不妊治療であるAIHからスタートすることをおすすめします。
また、男性不妊傾向のある男性でも、毎日射精の機会があるほうが精液の状態が向上するといわれていますので、AIHと併行して夫婦生活を持つことをすすめる施設が増えてきています。
人工授精(AIH)の流れ
AIHを行う場合には、おおよそ次のような流れで行います。
1. 過去の基礎体温表から、おおよその排卵時期を予測
過去の基礎体温のグラフから、低温期最終日から基礎体温上昇期の数日を排卵日と仮定し、おおよその排卵時期を予測します。
黄体の寿命は約14日ですので、月経周期が規則的で28日型の方であれば、月経周期14日目が排卵日になります。
2. 卵胞の成長を超音波検査でチェックし、より正確に排卵日を予測
排卵時期が近づいてきたら、経腟超音波検査で卵胞の直径を計って成長の度合いをチェックします。
自然周期の場合には、卵胞の直径が12mm程度になってからは、1日あたり約2mmのペースで成長し、約20mmを超えたところで排卵が起こるとされています。
3. 排卵期特有の頚管粘液の分泌が増えてきたら、その日にも夫婦生活を持っておく
普段は、子宮内に細菌が侵入するのをブロックするため乾き気味の子宮頸管ですが、排卵が近づくと、この時期特有の透明でよく伸びるおりものを分泌します。
このおりものが自覚できた日は、精子が子宮内に侵入しやすいので、夫婦生活を持っておくといいでしょう。
4. 排卵予測日の数日前から排卵検査薬(尿中LH検査薬)の使用開始を指示
排卵日の予測に排卵検査薬(尿中LH検査薬)を併用する施設も多いでしょう。
通常、卵胞径から予測した排卵日の数日前から使いはじめます。
排卵直前の使用開始だと、排卵指令となる黄体化ホルモン(LH)の大放出(陽性反応)をキャッチし損ねることがあります。
5. 排卵検査薬で陽性反応が出たら、ご主人に採精してもらい病院へ
LHサージの出はじめから約36時間、ピークから約24時間で排卵が起こるとされています。
排卵検査薬で陽性が出たら、ご主人に採精してもらい、できるだけ速やかにAIHの処置を受けましょう。
AIH当日、ご主人に同行してもらい、病院で採精してもらう場合もあります。
6. 洗浄濃縮処理をした精子で、できるだけ速やかにAIHを受ける
ご主人の生殖器に炎症があると、精液の液体部分(精漿)には白血球や雑菌が混入しますので、ほとんどの施設では、感染予防のため、AIHには洗浄濃縮して選んだ元気な精子を用いています。
この精子調整には、細胞密度の高い成熟した精子を集める密度勾配遠心法(アイソレート法、パーコール法など)や、運動性の高い精子を集めるスイムアップ法などがあります。
なお、AIH当日には妊娠を後押しする意味でhCGを注射するケースが多いでしょう。
7. 翌日、超音波による排卵確認
AIHの翌日に再度病院へ行き、タイミングがあっていたかどうかの検証のため、超音波検査による排卵確認を行います。
AIH時には見えていた卵胞が、翌日のチェックで消えたりしぼんだりしていれば(排卵後の様相)、タイミングとしては理想でしょう。
8. 妊娠判定とhCG
着床は排卵の約1週間後。
月経予定日頃には、胎盤になる組織から分泌されるhCGで妊娠判定が可能になります。
9. 妊娠の成立
妊娠5週に子宮内に胎嚢が確認されれば臨床的妊娠。
妊娠6週に心拍が確認されれば妊娠成立となります。
人工授精(AIH)の妊娠率
人工授精は、そのいささか大げさな名前のために、必要以上に敬遠されたり、期待されたりしてしまいがちですが、その妊娠率は決して高くはなく5~10%程度だといわれています。
医療側が請け負っているのは、排卵のタイミングに合わせて、洗浄濃縮した精子の精鋭部隊を子宮の奥に直接注入することで、精子が卵子を目指す旅の距離を、夫婦生活のときに比べて10cm(子宮の長さ分)ほど短縮しているに過ぎません。
ですから不妊治療の現場では、AIHまでは一般不妊治療と呼び、AIHで結果が出た場合には自然妊娠としてとらえることもあるほどなのです。
人工授精(AIH)の有効回数
AIHで妊娠した人々の9割は6回目のチャレンジまでに妊娠しているとの報告もあることから(5回目という報告もある)、AIHの有効回数を5回目(6回目)までとしている施設が多いようですね。
ただ裏を返せば、残る1割の人々は、それ以上の回数続けたからこそAIHで妊娠されているわけですので、6回目までに妊娠しなかった場合は、継続するかARTにステップアップするか、奥さまのご年齢や不妊期間などを考慮のうえ、担当医とご夫婦でよく相談して決められるといいでしょう。
ステップアップ治療は、エスカレーターではなく階段ですので、昇り降りは二人の自由です。
2段階目のAIHは3段階目のARTにくらべれば妊娠率はかなり低めですが、二人の負担(治療費、通院回数、副作用、夫婦生活に医療が介入してくるストレスや不快感、治療にともなう身体的な痛みなど)は小さくなります。
また、1回ARTを受けてみて結果が出なかった場合に、次回のARTまでの間に、再びタイミング指導やAIHを試してみることもできます。
情報更新日:2021年12月9日