精子の旅

日本の総人口ほどの精子がスタートしても、卵子を取り囲めるのは数十~数百個。

精子の全長は、およそ50μm(0.05mm)。卵子との待ち合わせ場所は、卵管膨大部と呼ばれる、卵管の先端付近です。子宮内腔の長さがおよそ7cm、卵管の長さがおよそ10cmですから、精子は最短でも17cmの旅をしなければいけません。人間の身長に換算すると、約6キロの旅路ですね。精子は秒速35~50μmで泳ぐといわれていますので、計算上は1時間~1時間半で卵子のもとにたどり着くことになりますが、実際にははっきりわかっていません。

腟内に一度に射出される精子数は、数千万~数億個。つまり、日本の総人口並みの数の精子が、毎回、卵子と巡り会うべく、旅のスタートラインに着くわけですが、実際に卵子を取り囲むのは数十~数百個にまで激減するといわれています。それだけ、過酷な旅なのです。

腟内は、子宮内に細菌やウイルスが侵入しないように酸性度の高い状態に保たれていますが、これは精子にとってもつらい環境です。精巣でつくられ精巣上体で蓄えられていた精子は、射出されるときを迎えると精嚢や前立腺でつくられた液体(精漿)と一緒になって放出されるのですが、実は、この液体が腟の酸から精子を守るためアルカリ性になっているのです。

また、射出直後の精液はドロドロとしたゼリー状になっていますが、これは子宮頸管に貼り付きやすくするためとも、身を寄せ合うことで中心部の精子を腟内の酸から守るためともいわれています。
精液は、約20~30分かけてサラサラに液化し、徐々に精子が子宮頸管内に侵入しはじめます。

子宮頸管もまた、普段は自浄作用のため普段は乾いた状態で、酸性に保たれています。ところが排卵直前になると、子宮頸管から精子の生存に適した、まるでタマゴの白身のようなアルカリ性のおりものが分泌され、子宮内に精子が侵入するのを助けます。女性が、このおりものを自覚できた日は、いわゆる夫婦生活日和なのです。

壮絶な戦いを勝ち抜いた運動能力の高い、幸運なただ1個の精子だけが卵子の中へ

子宮頸管内に侵入できた段階で、精子たちはスタート時の10分の1~100分の1の数にまで淘汰されています。

ようやく子宮内に侵入できても、待ち受ける白血球に攻撃され、多くの精子は死滅してします。子宮内膜のヒダは、小さな精子にとって山あり谷ありの凹凸の激しい道のり。しかも、目指すべきゴール、卵管膨大部は左右両側にあります。さあ、どちらに向かいましょうか。

実は、精子たち、卵から発せられる臭い物質に誘われて、正しいゴールを選択しているといわれているのです。卵管の入り口地点は、まさに旅の道半ば。でも、ここまでたどり着く精子の数は、おそらく1000個以下でしょう。

精子は、卵管内に卵子とともに採り込まれた卵胞液の刺激を受けると、最終的な受精能を獲得します。このキャパシテーションと呼ばれる状態を終えた精子は、卵子の透明帯に潜り込む準備のため、ハイパーアクチべーション(超活性化)を起こして、激しく頭部を振り、ジグザクとうねりながら前進するようになります。

そして、いよいよ卵管膨大部に到着! 果たして、夢にまでみた卵子は待っていてくれるでしょうか……。排卵後の卵子の寿命は、12~24時間程度しかありません。一方、精子は、女性の体内で数日(長いケースで1週間)は生きていますので、できれば先に卵管膨大部に到着し卵子を待ち受けるほうが得策でしょう。

待ちに待った排卵が起こると、精子たちは卵子を取り囲むことになるわけですが、その数はわずか数十~数百個だろうといわれています。そして、精子たちは卵に潜り込もうと先体反応を起こします。頭部を保護していた先体の外膜がやぶれ、卵子を覆う透明帯を溶かすための酵素(ヒアルロニターゼとアクロシン)が分泌されます。最初に卵子の透明帯を通過した精子の頭部が卵子の原形質膜に接着すると、透明帯は一瞬で性質を変え、ほかの精子の侵入を受けつけなくなります。

こうして受精においては、おびただしい数の精子が報われない結末を迎える中、壮絶な旅を勝ち抜いた、たった1個のたくましく幸運な精子と、卵子1個が結ばれるという壮大なドラマが展開されているのでした。

情報更新日:2021年12月9日


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