どんな病態なの?
男性不妊の9割以上を占めるのが、精子をつくる機能に問題のある造精機能障害ですが、その大半は原因がわからない特発性造精機能障害になります。
乏精子症とは、この造精機能障害によって、射出された精液中の精子濃度が低い状態で、夫婦生活による自然妊娠が難しいと考えられます。
WHOが2010年に改訂した精液所見の基準値では、精子濃度は1mLあたり1500万個以上とされています。
精液所見は変動が激しいので、間隔をあけながら精液検査を数回行い、常に基準値を下回ると乏精子症と診断されるわけですが、自然妊娠しやすい精子濃度とされるのは1mLあたり4000万個以上、総運動率は50%以上ともいわれており、不妊治療を行う施設独自の基準値を設定しているところも少なくありません。
また、逆に下限という意味では数100万個/mLの精子濃度で自然妊娠されるケースも、ごくまれにありますので、奥さまの年齢やそのほかの不妊原因の有無を考慮しながら治療法を選択していかれるのがいいでしょう。
妊娠するためには、どんな方法があるの?
【精索静脈瘤手術で精液の質の改善をねらいます】
「精索静脈瘤手術は、男性不妊の治療として効果がない」との報告もありますが、重度の精索静脈瘤ができている症例だけで比較すれば、手術が精液所見を大きく改善するとの意見もあります。
乏精子症の方で強く自然妊娠を希望され、重症の精索静脈瘤ができている方は、手術も視野に入れて検討してみましょう。
自然妊娠をねらう場合だけでなく、ARTに進む場合でも、精巣温度が高いと精子のDNA形成に問題が生じるため、精索静脈留の手術は精子の質の改善につながるといわれています。
【クロミフェン製剤によるホルモン療法】
明確な原因のない特発性造精機能障害の乏精子症の方にクロミフェン製剤(クロミフェン、クロミッド、セロフェンなど)を処方することがありますが、有効性についてはエビデンスがとれているというところまではいっていないようです。
クロミフェン製剤だけではなくビタミンEを一緒に摂取することで、精子濃度や妊娠率が上昇したとの報告もあります。
【低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に対するhMG/rFSH-hCG療法】
また、高度の乏精子症や非閉塞性無精子症の方の中には、脳下垂体からのFSHやLHが分泌されていない低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の方がおられます。
このような方には、精子をつくるために必要なFSH成分を含むhMG製剤もしくはリコンビナントFSH製剤とLH作用のあるhCG製剤を、1週間に1~2回、長期間(2カ月~1年に及ぶ場合も)にわたって注射するhMG/rFSH-hCG療法が有効です。
精子数が増えたり、無精子症だった方の射出精液の中に精子が出現したりする効果が期待できます。
ただし、精巣(睾丸)の萎縮や乳房の女性化などが起こった場合は、使用を中止します。
【効果を確認しながらご主人さまへの投薬治療】
残念ながら、明確な原因のない特発性造精機能障害の場合には、精子濃度の改善が確実に望めるような効果的な治療法はありません。
1000万個/mLくらいまでの軽度の乏精子症の場合には、ホルモン剤ではない漢方薬やビタミン剤などを用いた非ホルモン療法を試みながら定期的に精液検査を行い、改善しているかどうか様子をみる場合もあるでしょう。
精子をつくるのに要する期間が72日間、その精子が運動能力を獲得するのに要する時間が14日間ですので、少なくとも3カ月以上は投薬治療を継続します。
精子濃度に変化が見られないケースはもちろん、精子濃度が改善しても妊娠に至らないケース、また重症度が中度や高度の乏精子症のケースでは、奥さま側への不妊治療を併用します。
<非ホルモン療法>
- 漢方薬……八味地黄丸、補中益湯
- ビタミン剤……ビタミンB12、ビタミンE
- サプリメント……Lカルニチン製剤、コエンザイムQ10
【重症度によって奥さまが受ける治療が変わります】
明確な原因のない中度や重度の乏精子症の場合には、男性側に対する効果的な治療が難しいため、婦人科で女性側に対して妊娠を後押しする治療を施す場合が一般的です。
また、軽度の乏精子症でも、奥さまの年齢を考えると、ご主人に対して非ホルモン療法を長期間試す時間的余裕のないケースや投薬治療の成果が現れないケースでは、奥さまへの妊娠へのアシストを優先します。
なお、乏精子症の重症度によって、奥さまへのアシスト内容が変わってきます。
<奥さまが受ける不妊治療と精子濃度(参考値)>
- 軽度の乏精子症(~1000万個/mLまで)⇒人工授精(AIH)
- 中度の乏精子症(1000万個/mL未満100万個以上)⇒体外受精(IVF)
- 重度の乏精子症(100万個/mL未満)⇒顕微授精(ICSI)
※不妊治療施設によって基準は異なります。
情報更新日:2021年12月9日